「どんぐり倶楽部」のItoyamaです。
●連休中に気になる論文を見つけましたのでお知らせします。
●成長途上の脳へのストレス(児童虐待・徹底反復・高速学習)→脳の機能障害(変形・奇形・異常形成)→犯罪の低年齢化
※ますます、「読み・書き・計算」の徹底反復と高速学習(幼児虐待ですよ!)を止めなければ大変なことになりそうです。
※貴重な時間とお金を使って「考えられない頭」を作ってるんですよ!...だから、警告してたのに...。
※12才までの乳脳を攻撃する刺激は全て虐待なんです。虐待は暴力だけではありません。何もしてあげないこと(無視)もですし、
 学習という名の下に行うスピード学習・徹底反復も同じです
※「子育て」は「慌てず・焦らず・穏やかに」
 「教育」は「ゆっくり・ジックリ・丁寧に」でなければならないのです。...でも、そして受験は勝ちに行く。なんです。
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NEDO海外レポートNO.933, 2004. 6. 16
22【産業技術】ライフサイエンス
画像研究で脳の発達過程を解明(米国)
論理的思考や問題解決を司る脳の中枢は最後に成熟する部位であることを、最新の
研究が画像で明らかにした。4 歳から21 歳の被験者を対象に、10 年に渡って磁気共
鳴画像化法(MRI)で正常な脳の発達を調べる研究で、国立精神衛生研究所(NIMH)とカ
リフォルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)は前前頭皮質などの脳の“高次機能”中
枢は青年期まで完全には発達を終えないことを明らかにした。
5 歳から20 歳までの被験者の15 年間に及ぶ脳の成熟を数秒に圧縮する時間差撮影
の三次元の動画は、おそらく使用されない神経接続が十代で廃棄されるのを反映して、
大脳皮質の活動組織である灰白質が後頭部から前頭部へ向かって徐々に縮小すること
を明らかにしている。大脳皮質部位の成熟は、(大脳皮質が)関係する認知や機能発
達において画期的な出来事が起こる年齢で確認される。NIMH のNitin Gogtay 博士、
Judith Rapoport 博士、UCLA のPaul Thompson 博士、Arthur Toga 博士と研究員ら
は、成熟の順序がだいたい哺乳類の脳の進化と一致することも示唆している。この研
究は2004 年5 月17 日の週の米科学学会会報オンライン版で発表された。
「統合失調症のような神経発達障害で見られる脳の変化を解明するには、脳の正常
な発達過程についてもっと良く理解することが必要だった。」とRapoport 博士は説明
する。
研究員らは、健康な13 人の児童と十代の若者を成長にあわせて2 年に1 度、10 年
間に渡って(MRI)スキャンを行った。そのスキャン結果を全てまとめて登録し、脳の解
剖学的な特徴群を利用して、灰白質◯ニューロンとその樹状突起◯の盛衰を視覚化し、
全てのデータを合成し5 歳から20 歳までの脳の成熟を示す動画となるマップを作製し
た。
出生直後の18 ヶ月間に過剰産生によって灰白質が急増した後、使用されない神経回
路が廃棄されるにつれ、(灰白質は)恒常的に減少すると長く考えられていた。その
後、1990 年代後半に今回の研究の共同執筆者でもあるNIMH のJay Giedd 博士らが
思春期の直前に灰白質過剰産生の第二波があり、その後、使用されない神経回路の廃
棄の第二回目が十代のうちに起こることを発見した。

今回の研究で、最初に成熟する部位(脳の最前部及び最後部など)は感覚の処理や
動作など最も基本的な機能を担う部位であることが分かった。空間知覚や言語に関連
する部位(頭頂葉)がそれに続き、さらに高度の機能◯感覚からの情報の統合や論理
的思考、その他“高度”機能を司る部位(前前頭皮質)は最後に成熟する。
Rapoport 博士らが数年前に発表した関連研究で、早期発症型の統合失調症患者の十
代の若者は灰白質が過度に失われることが発見された。思春期前に精神病にかかった
このような若者は、通常失われる量の4 倍もの前頭葉灰白質を失っていた。このこと
は児童期に発症する統合失調症が“正常な成熟プロセス(不要な神経回路の廃棄)の
過剰な発現であり、おそらくシナプスが過度に廃棄されてしまうことに原因がある”
と研究者らは記している。これとは対照的に、自閉症の子供は灰白質が減少するので
はなく後頭部から前頭部へ向かって過度の増加が見られることから、“発達の初期段
階で特定の欠陥”が起こっていることが示唆される。
(出典:http://www.nimh.nih.gov/press/prbrainmaturing.cfm)リンク元→関連(NIH)
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<補足...掲示板より>
Re:処理抵抗値とは? レオン117さん
●必ず来る質問だと思っていました。HP(http://homepage.mac.com/donguriclub/brain-logic.html)には書いてあるんですが、簡単に説明します。IQとIQ測定値は違います。IQは先天的な変えられないデータ処理速度です。ところがIQ測定値はコンディションや<慣れ>で変化します。ですから、IQ測定値の変化は娯楽としては成り立ってもIQを表してはいません。だいたいのIQが分かる程度です。そして、それで十分なのです。さて、処理抵抗の話でIQの話をしたのは処理抵抗とは同じ仕事(処理)をするときの抵抗値のことだからです。IQは処理速度ですから関係しているわけです。というよりも実はIQとは処理抵抗の逆数なんです。同じ仕事(主に外界からの刺激の処理)をするにしても抵抗が大きい場合にはエネルギーを多量に消費してしまいますね。さて、人間が思考回路網を作れる期間は最長で12年間です。ですが、その作成に使える進化エネルギーは有限です。ですから、同じエネルギー量で同じ仕事量だった場合は抵抗値が大きいと早く使い切ってしまいます。幼児・児童期に誰もがしなければならない処理はさほど変わりません。ですから、Giedd博士のデータではIQを3段階に分類した時に刈り込みが始まる時期が3種類になったのです。限界が12才(性成熟年齢)ですので、IQが高い方が刈り込み時期が12才に近いのは当然です。
※ですから、幼児・児童期に単純計算や大量記憶なんて単純回路しか使わないことに進化エネルギーを使ってはいけないんです。だ・か・ら、知的早期教育は危険なんです。一生に一度しかない思考回路作成用のエネルギーを使えるチャンスを潰しているんですからね。
※IQが80-130であれば全く支障はありませんし、変化させようとすることは徒労です。逆に低くても高くても異常とされるのは視覚イメージを意識できるか(自分の意志で考えられるか)どうかということです。 (2006年11月14日 16時44分54秒)
返事を書く ……………………………………………………………………………………………
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児童虐待が脳に残す傷
子どものときに激しい虐待を受けると
脳の一部がうまく発達できなくなってしまう
大人になってからも続く精神的なトラブルはこれが原因のようだ
M.H.タイチャー(ハーバード大学医学部)
出典:日経サイエンス 2002年6月号
 
1994年、ボストン警察はロクスベリーにあるアパートの不潔な一室に閉じこめられていた4歳の男の子を助け出した。この子はその部屋で恐ろしく惨めな生活を送っていて、栄養失調になっていた。かわいそうに、その小さな手はひどい火傷を負っていた。薬物乱用者だった母親が、我が子の手を熱い蒸気の吹き出し口に押しつけたのだ。言いつけに背いて、母親の男友達の食べ物をつまみ食いした罰だったという。しかも、何の手当もされていなかった。
 このむごい話は、すぐに米国でトップニュースになった。男の子は養育施設に預けられ、火傷治療のために皮膚移植が行われた。彼の身体的な傷は治った。しかし、発達過程の心の傷に負った傷は決して癒されないことが、最近の研究で明らかになった。

心の傷はソフトウエアの問題?
 この悪名高いケースは極端な例だが、不幸なことに児童虐待は珍しくなくなっている。毎年、米国の児童福祉局には300万件以上の虐待やネグレクト(養育の放棄や怠慢)の通報があり、そのうち100万件以上には虐待の明らかな証拠がある(日本の状況は53ページの囲みを参照)。
 子ども時代に身体的・性的・心理的虐待を受けると、大きくなってからも精神的トラブルを抱える場合がある。これまでの研究から、虐待と精神的トラブルの間には強い関連があるとわかってきた。これは驚くにはあたらないだろう。
 しかし、1990年代初期には、情緒的・社会的なトラブルはおもに心理的なものから生じると専門家は信じてきた。児童虐待の被害者は、精神的な防御メカニズムが強く働きすぎ、大人になってから敗北感を感じやすくなったりする。精神的・社会的な発達が抑えられて、大人になっても”傷ついた子ども”のままになってしまうこともある。そのように考えられてきた。
 虐待によるダメージは基本的には”ソフトウエア”の問題とされてきた。治療すれば再プログラムが可能で、つらい体験に打ち克つよう患者を支えれば、治せる傷ととらえられてきた。
 私たちマサチューセッツ州ベルモントにあるマクリーン病院とハーバード大学の共同研究グループは、虐待の影響を研究して、これとは少し違う結果を得た。子どもの脳は身体的な経験を通して発達していく。この決定的に重要な時期に虐待を受けると、厳しいストレスの衝撃が脳の構造や機能に消すことのできない傷を刻みつけてしまう。いわば”ハードウエア”の傷だ。虐待を受けると、子どもの脳では分子レベルの神経生物学的な反応がいくつも起こる。これが、神経の発達に不可逆的な影響を及ぼしてしまうらしい。

虐待の影響は大人になってから
 子ども時代に虐待を受けた影響は、思春期、青年期、壮年期など人生のあらゆる時期において、さまざまな形となって現れる。抑うつ状態に陥ったり、ささいなことでひどく不安になったり、自殺をたびたび考えるようになる場合もあれば、心的外傷後ストレス障害(PTSD)になることもある。外に向かう場合には、攻撃的・衝動的になって反社会的行動に出たり、一時もじっとしていられない多動症や薬物濫用となって現れる。
 最も厄介な精神症状の一つは「境界性人格障害」だろう。こうなると、他人を白か黒かでしか判断しなくなる。たとえば、ある人を最初は尊敬して偶像視するのだが、裏切られたり幻滅させられるようなことがあると、今度は一転して激しく中傷する。怒りを爆発させやすく、一時的にパラノイア(偏執症)や精神病に似た症状を示したりする。一般に虐待を受けた人は、他人と安定した関係が築けなかったり、虚無感にさいなまれたり、自己のアイデンティティを保てないなどのトラブルがある。それから逃れようと薬物濫用に陥ったり、自傷行為や自殺行動、極端な無茶食いや浪費など、自分に害をなす行為をしてしまう。
 1984年に境界性人格障害の3人の患者を診る機会があった。診察するうちに、私はこう思い始めた。彼らは子ども時代にさまざまな虐待を受けたことで、大脳辺縁系の発達がうまくいかなかったのではないか?
 辺縁系とは、相互に連結した核(神経の塊)の集まりで、情動や記憶の制御に重要な役割を果たしている。特に重要なのが「海馬」と「扁桃体」という2つの領域で、側頭葉のすぐ内側にある。海馬は、言語記憶や情動記憶を作ったり、思い出したりするのに重要と考えられている。扁桃体は記憶の情動成分を作り出すことにかかわっている。記憶の情動成分とは、たとえば恐怖条件づけや攻撃反応に関係する感情などだ。
マクリーン病院の同僚であるイトウ(Yutaka Ito)、グロード(Carol A.Glod)と私は、子ども時代に虐待を受けると、これらの脳領域が健康に発達・成熟できなくなるのではないかと考えた。子ども時代の虐待のせいで、扁桃体が過剰に興奮するようになったり、大量のストレスホルモンにさらされることによって海馬の発達がダメージを受ける可能性はないだろうか。
 側頭葉てんかん患者では海馬や扁桃体の機能に障害が出る場合がある。虐待を受けた患者での海馬の損傷や扁桃体の過剰な興奮が、扁桃葉てんかん発作のような症状を引き起こすことはないだろうか。
 扁桃葉てんかん発作では、脳の海馬や扁桃体で電気信号の嵐が起き、患者は意識はあるが、けいれんをはじめとするさまざまな症状を経験する。しびれ、めまい、打診痛などが突然起きたり、視線が定まらない、引きつけ、紅潮、吐き気、高速エレベーターで上昇するときに経験する「胃に穴の開いた」ような感覚といった症状などだ。さまざまなタイプの幻覚や妄想も生じる。たとえば、不思議の国のアリスが経験したように、見ている物のサイズや形がねじれて感じられることもある。既視感(デジャブ)や心体遊離などの断裂体験もよく認められる。

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児童虐待は脳を傷つける
■最近まで心理学者たちは、子ども時代に受けた虐待は社会心理学的発達を抑制し、精神防御システムを肥大させて、大人になってからも自己敗北感を感じやすくすると考えていた。最近、脳の画像診断法の研究などによって、児童虐待は発達している最中の脳自体の機能や神経構造に永続的なダメージを与えることがわかってきた。
■この痛ましい結果から確実にいえることはこうだ。何百万人もの幼い犠牲者が取り返しのつかない傷を負う前に、児童虐待やネグレクト(養育の放棄や怠慢)を何としても防がなくてはならない。
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虐待によって生じる脳の変化
 子ども時代に受けた虐待と辺縁系の機能障害との関係を知るために、私は1984年に、患者が側頭葉てんかんのような症状を経験した頻度を調べるチェックリストを考案した。253人の結果をまとめて発表したのは1993年のことだ。被験者はメンタルクリニックを訪れた成人外来患者で、半数ちょっとが子どものときに身体的、性的虐待を受けたと述べている。
 虐待を受けていない患者と比較して、側頭葉てんかん発作チェックリストの平均的スコアは身体的虐待を受けた人(性的虐待は受けていない)で38%高く、性的虐待(身体的虐待は受けていない)では49%高かった。身体的・性的の両方の虐待を受けた人では、何も受けなかった人に比べて113%も平均スコアが高かった。18歳以前に受けた虐待は、それ以後のものに比べて影響が強く、男女差は認められなかった。
 1994年に私たちマクリーン病院の研究チームは、子ども時代の身体的、性的、心理的虐待が脳波の異常と関係するかどうかを調べてみた。より直接的に辺縁系の興奮を測定できる脳電図を使った。私たちは、小児・青年精神病院に入院している115人の記録を再調査してみた。子ども時代に心的外傷(トラウマ)を負った患者の54%に脳波の異常が見られたが、これは虐待されていない患者の27%に比べて明らかに高かった。さらに深刻な身体的虐待や性的虐待を受けた人たちの72%に、脳波の異常が発見された。以上は前頭葉と側頭葉で生じていた。驚いたことに、以上は左半球だけで、右半球には見られなかった。
 私たちの結果は、1978年にエール大学医学部のデイビス(Robert W.Davise)が発表した脳電図の結果とぴったり一致した。彼らは肉親から性的虐待を受けた成人被害者を調べ、77%に脳電図の異常が、27%には発作の経験があったと報告していた。
 MRI(磁気共鳴画像法)を使ったその後の研究で、子どものころに虐待を受けた人では、海馬が小さくなっていることがわかった。扁桃体も同様に小さくなっているようだ。1997年、当時エール大学医学部にいたブレムナー(J.Douglas Bremner)らが、子ども時代に身体的又は性的な虐待を受けた17人の成人の脳をMRIを使って調べてみた。17人全員に心的外傷後ストレス障害(PTSD)が見られた。
 比較対照のために年齢・性別・民族・利き手・学歴・飲酒量などが同じで、精神的トラブルを抱えていない人を選び、同じ検査をした。PTSDに苦しむ虐待経験者の左の海馬は、健康な人に比べて平均して12%小さかった。しかし、右の海馬は正常サイズだった。また、17人の患者は対照群に比べて言語記憶テストの成績が悪かった。海馬が記憶に重要であることを考えると、これは驚くにはあたらない。
 1997年にカリフォルニア大学サンディエゴ校のスタイン(Murray B.Stein)は、子ども時代に性的虐待を受けPTSDや解離性同一障害に陥った21人の成人女性の左の海馬に異常を発見した(解離性同一障害は、一般には”多重人格障害”と呼ばれ、患者には虐待を受けた女性が多い)。スタインの計測によれば、左海馬のサイズが明らかに小さくなっているものの、右海馬はそれほど影響を受けていないと言う。さらに、海馬の小ささと解離性同一障害の症状の度合いには明らかな相関があった。
 ドイツのビーレフェルトにあるギリード病院のドリーセン(Martin Doriessen)らは、児童虐待を受けた境界性人格障害の成人女性では正常サイズよりも8%小さいと2001年に報告した。

正常サイズの場合もあるのはなぜか?
 一方、ピッツバーグ大学医学部のド・ベリス(Michael D.De Bellis)らは、虐待を受けPTSDに苦しむ44人の子どもと比較対照のための61人の子どもを注意深くMRIで調べた。その結果、海馬サイズに明らかな差は見つけられなかったと1999年に報告した。
 マクリーン病院のアンダーセン(Susan Andersen)、ポルカリ(Polcari)と私は、脅されて性的虐待を繰り返し受けた18人、18〜22歳)の海馬を19人の同年齢の人と比較する研究を最近行い、同じような結果を得た。これまでの研究では、精神的なトラブルを抱えた患者を被験者にしていたが、それとは違い、今回の被験者は募集に応じた人たちで、精神面での問題はほとんどなかった。海馬サイズの差は検出できなかったが、ドリーセンらの結果にもあったように、左の扁桃体は平均9.8%小さかった。この場所は、抑うつや興奮性、敵意の感情に関係している部位だ。
 私たちはもう一度、自問してみた。ブルムナーたち、スタイン、ドリーセンらの研究では虐待患者の海馬が小さいのに、ド・ベリスと私たちの調査では差が出ないのはなぜだろう。一番可能性の高い解釈は、次のようなものだろう。ストレスは海馬に対して大変ゆっくりと影響を及ぼすので、その人たちが大きくなるまでは解剖学的な差として現れないという解釈だ。

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脳に受ける傷
 幼いころ虐待を受けた人が反社会的行動に出る場合があるのは、記憶や情動を制御する原始的な皮質領域である大脳辺縁系の過剰興奮によるらしい。脳の奥深くにある2つの領域「海馬」と「扁桃体」が、この機能不全に深く関係すると考えられている。海馬は、来た情報を長期記憶に貯蔵するかどうかを決めるのに重要な場所だ。扁桃体は、その人の生存や感情の必要性に応じて、到来した感覚情報にフィルターをかけたり解釈したりし、適切な応答をするのを助けている。
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ストレスホルモンが脳を蝕む
 ストレスが海馬を蝕むという考えは、当時すでに動物実験で証拠が出ていた。たとえば、ロックフェラー大学のマッキーウェン(Bruce S.McEwen)とスタンフォード大学のサポルスキー(Robert M.Sapolsky)の動物実験だ。海馬はゆっくり発達するためにストレスに対して弱いだけでなく、生まれた後も新しい神経細胞が成長し続ける数少ない領域の一つだ。また、海馬には他のどの脳領域よりも、ストレスホルモンであるコルチゾルの受容体が高濃度に分布する。海馬の巨大神経細胞はストレスホルモンにさらされると形が変わり、死ぬこともある。比較的小さな神経細胞である顆粒細胞の新生もストレスによって抑制されることもある。この神経細胞も、生後も分裂・発展し続ける。
 マッギル大学のミーニー(Michael J.Meaney)とエモリー大学のプロツキー(Paul M.Plotsky)は、ラットの子どもにストレスを与えると、海馬や扁桃体に存在する分子の組成が変わることを示した。その重要な結果の1つが、扁桃体でのGABA受容体の変化だ。
 GABA受容体は、ガンマアミノ酪酸(GABA)という脳の最も重要な抑制性神経伝達物質と結合する。GABAは神経細胞の電気的興奮を抑えるから、もしGABA受容体がうまく働けなくなると、興奮が抑えられないまま、過度の電気刺激をもたらし、発作が生じてしまう。強いストレスを受けたラットでは、GABA受容体を構成するサブユニットの組成が変化していた。この発見は、虐待を受けた人の脳波異常と辺縁系が興奮しやすいという私たちの発見と見事に一致する。

左半球の問題

 子ども時代のトラウマが辺縁系に影響を及ぼすことは、ある程度予想していた。むしろ私たちは「虐待が左半球の脳電図異常と相関がある」というはじめのころに得た結果を重視した。児童虐待と左右半球の発達の間には、関係があるのではないだろうか。
 そこで「脳電図コヒーレンス」という定量的な計測法を使ってみた。この方法は脳の機能を調べるのに便利な脳電図とは違い、配線や回路を明らかにして、脳の微細構造を調べることができる。大脳皮質にある神経回路網での信号伝達の程度を数値化する。脳電図コヒーレンスが異常に高い場合は、神経管の信号伝達が未熟な証拠となる。
 私たちは、この方法を用いて1997年に、15人の健常ボランティア(対照群)と、強度の身体的虐待または性的虐待を受けた15人の精神疾患患者(子どもと青年)を比較してみた。
 一般に右利きの人では、右半球よりも左半球が発達している。対照群ではこの常識通りに、左半球の方が発達していた。しかし虐待を受けた患者では、全員が右利きであるにもかかわらず、右の方が発達していた。ただし、虐待を受けた患者の右半球が特に発達していたわけではない。右半球の発達の程度は対照群と差がなかった。左半球の発達が大きく遅れていたのだ。
 この15人の患者は、必ずしも同じ精神疾患ではないが、この異常な結果は全員で際だっていた。発達の遅れは左半球全体で見られたが、特に側頭葉部分が顕著だった。これは、「虐待と左右半球の発達の間に関係がある」という私たちの仮説を裏付けていた。
 大脳の左半球は言語を理解したり表現したりするのに使われていて、右半球は空間情報の処理や情動、特に否定的な情動の処理や表現をおもにしている。虐待を受けた子どもは、そのつらい思い出を右半球に記憶しており、それを思い出すことで右半球を活性化しているのではないかと私たちは考えた。
 これを調べるのに、マクリーン病院の私の研究室にいるシファー(Fred Schiffer)は、成人が記憶を思いだしている最中に脳のどこを働かせているのかを1995年に調べた。実験では、楽しくもつらくもない記憶(中立記憶)を思い出したときと、子ども時代のつらい記憶を思い出したときに、脳のどちらの半球が活性化するかを調べた。
左右の半球でのやりとりがうまくいかない
 虐待を受けた経験のある人たちは、中立記憶を考えているときには圧倒的に左半球を用いており、嫌な記憶を思い出すときには右半球を使っていた。対照群では、どちらのときも同じ程度、両方の半球を使っていた。対照群では、反応が両半球間でうまく統合されているわけだ。
 シファーの研究は、小児期のトラウマが左右両半球の統合不全に関係することを示している。私たちは脳梁に何か異常が起きていないかを調べることにした。脳梁は2つの半球間で情報をやりとりする非常に重要な回路だ。私とアンダーセンは米国立精神衛生研究所のギード(Jay Giedd)とともに1997年に、この部分を調べた。
 その結果、虐待されたり、ネグレクトされた経験のある男の子では、脳梁の中央部が対照群に比べて明らかに小さいことを発見した。また男の子では、ネグレクトが他のどの虐待よりも影響が大きいとわかった。一方、女の子では脳梁中央部の小ささと最も強い相関があったのは性的虐待だった。ド・ベリスは1999年に同じ研究をより大規模に行い、同様の結果を得た。幼いころの経験が脳梁の発達に影響を及ぼすという結果は、エモリー大学のサンチェス(Mara M.Sanchez)によるサルの研究でも確認された。

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日本でも増える児童虐待
 日本で2001年に虐待によって亡くなった子どもは61人。2000年の44人を大きく上回る痛ましい状況にある(警察庁による)。児童虐待は数こそ米国に比べるとはるかに少ないが、ずっと増加傾向にあることは見過ごせない。全国の児童相談所に寄せられる虐待に関する相談も増え続けている。また、米国では少しでも疑わしい場合は、近所の人や学校の先生などが報告する傾向にあるが、日本ではまだそこまではいっておらず、子どもの死亡で事件が発覚した例も少なくない。
 2001年に警察が児童虐待で検挙したのは189件・216人(被害者の子どもは194人)。検挙には至らなくても、行政などの判断で保護者から子どもを引き離し、一時保護した件数は2000年度で6188件になる。1999年度、1998年度の一時保護はそれぞれ4319件、2053件だらか、いかに深刻な増加ぶりかわかるだろう。
 児童虐待の処理件数が増えているのは、2000年に児童虐待防止法が施行されたことが背景にある。児童虐待は「家庭内のこと」として警察や行政は手を出しにくかったが、介入しやすくなり、数値として表に出やすくなった。また、法律の成立をきっかけに、児童虐待に対する認識が学校や医療関係者、一般の人に広まったこともある。児童相談所に寄せられる相談も近隣・知人からの割合が増えている。
 しかし隠れていた虐待が表に出始めただけではなく、実際に起きている数も増えていると見られている。厚生労働省では全国174カ所にある児童相談所で受け付けた虐待に関する相談の処理件数を集計している。統計を取り始めた1990年度は1101件だったのが、2000年度は1万7725件と16倍になっている。この数字は相談件数ではなく、子どもを保護するなどの対応をした「処理件数」。相談件数ならばずっと多くなる。
 興味深いのは、相談をした人だ。全体の1/4〜1/5を家族が占め、しかも、その半分は虐待者本人。つまり、「子どもをつい虐待してしまう」と相談する人が、全体の1割を占めている。東京都の社会福祉法人「子どもの虐待防止センター」の電話相談(03−5374−2990)ではもっと顕著で、相談者の72.3%が虐待者本人だ(1999年度)。
 厚生労働省は2001年4月に「虐待防止対策室」を設置した。最終目標は、夫婦間の暴力も含め、家庭内の虐待がない社会にすることだが、この対策室の力だけで実現するはずもなく、省内の他の部署や文部科学省、自治体、民間ボランティア団体などと連携をとりながら取り組む姿勢だ。ただ、起きてしまった事件への対応に追われているのが実情という。
 虐待をする親自身がSOSを出している背景には、少子化などで、赤ちゃんや子どもがどういう存在なのかを実感をもって知らないまま親になった人が増えてしまったことが背景にある。核家族化などで身近に相談できる人がいないのも一因だろう(児童相談所などでは匿名での相談が可能)。センターに相談した虐待者の1/4は、自分も子ども時代に虐待を受けたという。世代を超えて伝わりかねないのが、児童虐待の恐ろしいところだ。
(編集部)
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小脳への影響がそもそもの原因なのか?
 虐待と左右半球に関する私たちの研究は、ウィスコンシン大学マジソン校のハーロウ(Harry F.Harlow)が行った先駆的な研究にヒントを得ている。1950年代にハーロウは、ぬいぐるみの”母”に”育てられた”子ザルと、本当の母ザルに育てられた子ザルを比較した。ぬいぐるみを母として育ったサルは、社会的に異常な行動をとり、成体になるとひどく攻撃的になった。ハーロウと一緒に仕事をしたルイジアナ・デルタ霊長類センターのメイソン(W.A.Mason)は、ぬいぐるみの母を横に揺らすだけで子ザルの症状が少し和らぐことを発見した。
 米国立小児健康・人間発達研究所のプレスコット(J.W.Prescott)は、この動きが小脳の真ん中にある「虫部」という部分に伝えられると考えた。虫部は脳幹のすぐ外側に位置する。小脳虫部にはさまざまな働きがあるが、注目すべきは脳幹に存在するある核の働きを調節している点だ。この核では神経伝達物質であるノルアドレナリンやドーパミンの産生と分泌を制御している。海馬と同じく、虫部もゆっくりと発達し、生後も神経細胞を作り出している。ストレスホルモンに対する受容体の密度は海馬よりも高いくらいで、ストレスホルモンにさらされるとその発育は強く影響を受けるだろう。
 最近になって、小脳虫部の異常が躁うつ病や精神分裂病、自閉症、注意欠陥・多動性障害(ADHD)などのいろいろな精神疾患にかかわっていることがわかってきた。これらの疾病は児童虐待で生じるのではなく、遺伝的な要因や胎児期の母胎環境などがおもな原因と考えられているが、小脳虫部の異常が多くの精神疾患でカギとなっていると推測できる。この部位が精神衛生にとって重要な役割を持つようだ。
 小脳虫部がノルアドレナリンやドーパミンの放出を制御しており、これがうまくいかないと、抑うつ状態や精神病、注意不足、多動症状を引き起こす可能性がある。ドーパミン系が活性化すると、左半球が右半球よりも活発な状態(左半球優位)に移行する。このとき、その人は言語で何かを考えていたり、話をしたり、聞いている状態となる。逆に、ノルアドレナリン系が活性化すると、右半球優位の情動的な状態へと移行する。奇妙なのは、小脳虫部が辺縁系の電気的活性を調節するのを助けていて、虫部が活性化すると海馬や扁桃体の発作を抑制できる、という点だ。

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抑制できなくなる
 ヒトの中枢神経系で、おもな抑制性の神経伝達物質となっているのはガンマアミノ酸(GABA)だ。これに結合して信号を伝えるはずの受容体がストレスで変化すると、神経がうまく抑制されずに過剰興奮し、それが辺縁系を興奮させる。正常に機能しているときは、GABA受容体を構成する大事なサブユニットの1つが欠失すると、神経活性を押さえられなくなることもある。
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 ツレーン大学のヒース(R.G.Heath)は、ハーロウのぬいぐるみに育てられたサルでは、海馬と小脳虫部のすぐ近くにある小脳室頂核に異常があることを発見した。ヒースは非常に治りにくかった精神神経症患者の小脳虫部に電気刺激を与えると、一部で発作頻度が減少し、症状が改善したことも報告した。この結果から私たちは、児童虐待によって小脳虫部が異常をきたし、その結果、辺縁系の興奮性が高まったり、海馬に緩やかな変性が生じるのだろうと考えた。
 この仮説を検証する手始めに、マクリーン病院のイメージングセンターのアンダーソン(Carl M.Anderson)は、最初私と、次にレンショー(Perry Renshaw)とともに、MRIを基礎とした新しい機能的イメージングであるT2リラクソメトリーという方法を用いた。この方法は私たちが開発したものだ。最初に、放射性トレーサーやコントラストをつける染料なしで、休息時の脳内の局所的な血流量をモニターする。脳が休んでいるときには、脳領域の神経活動とその活動を持続させるために受け取る血流量との間には、ぴったりとした釣り合いがある。アンダーソンは、性的虐待を繰り返し受けた青年と対照群の青年の両方のグループで、小脳虫部の活性と辺縁系の興奮の程度にはっきりとした相関を発見した。辺縁系の興奮の程度は、私の研究した側頭葉てんかん発作のチェックリストを指標にしている。
 しかし、辺縁系の症状レベルがどの程度であれ、虫部の血流量はトラウマ経験のある人たちでは極端に減少していた。小脳虫部の血流量が低いということは、ここが十分に機能していないことを示している。一般に虐待を受けた人では側頭葉てんかんチェックリストのスコアは高くなる。おそらくこれは虫部が十分に機能していないので、辺縁系の電気的興奮を鎮められないためだろう。
 これらの発見から、境界性人格障害が出現するメカニズムに関して興味深いモデルを作ることができる。これらの患者では脳梁が小さく、左右の大脳半球の統合がうまくいかない。このため、左優位から右優位の状態に突然に移りやすいに違いない。左右の優位性が変わると同時に、全く異なる情動や記憶が生じる。友人や家族、仲間たちに非常に親しげに接したかと思えば、手のひらを返したように反抗的な態度をとることがある。優位半球の突然の入れ替わりが、この特徴を生み出すのだろう。その上、辺縁系の電気的興奮は攻撃や激怒、不安などをもたらしてしまう。側頭葉の脳電図異常は、自殺行動や自傷行為を起こしがちな人によく見られる現象なのだ。

虐待による脳の変化は厳しい世界を生き抜く”適応”
 私たちのチームは、子ども時代の極端なストレスが、正常でスムーズな脳の全体的発達に対して有害に働き、大人になっても続く精神症状を引き起こす、という仮説から研究を出発させた。ド・ベリス、スタイン、ブレムナーなどの多くの科学者たちも、今や、同じような仮説をはっきりと提唱している。しかし私は、もう一度、私たちの仮説を再評価し、疑問を投げかけたいと思う。
 ヒトの脳は、経験によって再構築されるように進化してきた。私たちの祖先にとって、幼いころに困難に直面するのはごく日常的だっただろう。だとすれば、発達途上の脳は、虐待にあうとそれをうまく処理するようには進化しなかったのだろうか?虐待によって、非適応的なダメージが与えられてしまうと考えていいのだろうか?これはたぶん誤りだろう。
 もう1つの可能性が考えられる−幼いころに激しいストレスにあうと、脳に分子的・神経生物学的な変化が生じ、神経の発達をより適応的な方向に導いたとも考えられる。危険に満ちた過酷な世界の中で生き残り、かつ、子孫をたくさん残せるように、脳を適応させていったのだろう。
 ひどい状態の中で生き残るには、どんな特性や能力が有利になるだろうか。いわゆる「闘争か逃走か」反応を動員する能力が重要であることは間違いない。これにはためらわずに挑むだけの攻撃反応や、危険に対して高レベルの警戒態勢に入る反応、負傷からの回復を促進する反応などがある。この意味で、私たちが観察した脳の変化は「不利な環境に対する適応である」と理論を作り直せる。
 この適応状態は、生殖年齢の間、傷ついた個人を安全に過ごさせるのに役立つ(性的乱婚状態を促進させ、、たくさんの子を産む可能性も高い)。このことは生物進化での成功(多産)には不可欠だが、その代償も高くつく。マッキーウェンは最近、以下のような仮説を立てている。短期間にはストレス反応系の過度な活性化は生存に不可欠だが、長期的に見ると、肥満や糖尿病、高血圧などになる危険性を高め、自殺を考えるなどの多くの精神的トラブルを引き起こし、老化を早め、海馬を含む脳構造の変性を促進するという説だ。
 適切な世話をし、激しいストレスを与えないことが子どもの脳に大切だと私たちは考えている。そうすれば、左右両半球の統合もうまくいき、子どもは攻撃的にならずに、情緒的に安定していて、他人に同情・共感する社会的な能力も備わった大人になるだろう。この過程が社会的動物である私たちに複雑な人間関係を可能にし、創造的能力を開花させたと信じている。
 社会は自分たちが育てた子どもによって報いを受ける。極端なストレスは、さまざまな反社会的行動を起こすように脳を変えていく。しかし、これは本人にとっては”適応”なのだ。ストレスは、身体的・心理的・性的トラウマの形をとることもあれば、戦争や飢饉、疫病がストレスとなることもある。このとき、ホルモンの量がほんのわずかに変化し、子どもの脳の配線を永久に変えてしまう。そして、他人の不幸を喜ぶような冷酷な世界でも生き抜けるように適応しうるのだ。この一連の出来事を通して、暴力や虐待は世代を超え、社会を超えて受け継がれていく。
 私たちが断固として主張したいのは、まず最初に、何としても児童虐待が起きないようにする努力がもっと必要だ、ということだ。いったんカギとなる脳の変化が起こってしまうと、二度と元に戻らないのだから。
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訳者 石浦章一(いしうら・しょういち)
東京大学大学院総合文化研究科・生命環境科学系教授、理学博士。専門は分子認知科学。とくに遺伝性神経疾患の発生メカニズムを研究している。

著者 Martin H.Teicher
ハーバード大学医学部精神科の準教授で、マサチューセッツ州ベルモントにあるマクリーン病院の発達生物精神医学研究プログラムの責任者。マクリーン病院のメイルマン研究センター発達精神薬理学部門のチーフでもある。

原題名
Scars That Won't Heal:The Neurobiology of Child Abuse
(SCIENTIFIC AMERICAN March 2002)

もっと知るには・・・
DEVELOPMENTAL TRAUMATOLOGY,PART2:BRAIN DEVELOPMENT.M.D.De Bellis,M.S.Keshavan,D.B.Clark,B.J.Casey,J.N.Giedd,A.M.Boring,K.Frustaci and N.D.Ryan in Biological Psychiatry,Vol.45,No.10,pages 1271-1284;May 15,1999.

WOUNDS THAT TIME WON'T HEAL:THE NEUROBIOLOGY OF CHILD ABUSE.Martin H.Teicher in Cerebrum(Dana Press),Vol.2,No.4,pages 50-67;Fall 2000.

著者の勤めるマクリーン病院のウェブサイト http://www.mcleanhospital.org/
社会福祉法人「子どもの虐待防止センター」のウェブサイト http://www.ccap.or.jp/