総索引http://watanabeyukari.weblogs.jp/yousho/2009/05/post-eef6.html
2009.05.16
子供の才能を殺さないために親が読む本(1)
教育に関するノンフィクションを書く目的でレキシントン公立学校の運営陣と生徒を取材し、実際自分で子育てをした経験から、私は早期英才教育への反論をいくつか「ひとり井戸端会議」や「才能を殺さない教育」のほうに書いてきました。そうしたところ最近になって教育に関する書を多く出版されているT.Itoyamaさんという方からメールをいただきました。
 日本を離れてずいぶん経つので、恥ずかしながらそれまでItoyamaさんの存在を存じ上げなかったのですが、お送りいただいた「思考の臨界期」という論文を読ませていただいたところ、あまりにも私の信念に似ていてびっくりしました。
Itoyamaさんと私の出会いのきっかけは、National Institute of Mental Healthの神経科学者Jay Giedd医学博士です。
5歳から25歳までの脳を研究してきたGiedd博士が発見したのは、脳は思春期で成長・成熟しきるのではなく、無駄な枝を剪定しつつ成長と成熟を続ける大事な時期だということです。おおまかに説明すると、将来の脳を決定するための反復学習が必要かつ有効になるのは思春期でありこの時期に"Use it or lose it(使って伸ばすか、使わずに失うか)"の剪定をするという理論です(詳しくはTimeの記事とグラフィックをどうぞ)。それまでの幼児・児童期はニューロンの接続(可能性)をどんどん増やしてゆく大切な時期であり、そこで剪定(早期英才教育)をするべきではないのです。
私が幼稚園のころから高校生の現在まで追跡した子供たちの中で、幼いころから公文式で高速計算練習をし教師からも「出来る子」とみなされていた子供たちは、Giedd博士の研究結果のようにニューロンのコネクションがピークに達する11~12歳ごろから同級生と同じレベルになり、剪定が行われる高校生の現在は私の娘のように高速計算をしていない者の数学レベルにはるかに及びません。
読書力も同様です。幼稚園のときにすでに小学校高学年レベルの本(単語)が読めた2人(これもまたアジア系2世)は小学校3年生くらいから平均的なレベルの生徒になり、「お母さんが読めと押し付けるから読むけれども、読書は嫌い」と正直に打ち明けてくれた子は、読書だけでなく勉強嫌いに育ってしまったようです。
コンピューターの学習ゲームも同様の結果を生んでいます。
私のこの体験は、Itoyamaさんが文藝春秋社から出版された「絶対学力」のこのページと不気味なほど一致しています(詳しくはItoyamaさん主催の「どんぐり倶楽部」をどうぞ)。
最近のアメリカの脳科学と発達心理学の研究では、Itoyamaさんや私の信念を裏付けるものが多くなっています。
特にItoyamaさんの「思考の臨界期」の次の部分は日本人の若い親御さんたちに読んでいただきたいと思います。
「時期がずれている時(不自然に早く)に開発される能力は害になります。害になるから、自然には発達しないようにプログラムされているのです。それなのに、眠っている子を起こして喜んでいるような人が大勢います。幼児・児童期に目ざめた能力は一生の性格(能力によっては一生の弊害)になる場合が多いので、要注意です。」
つまり、早期英才教育(高速計算練習やフラッシュカードで単語を覚えさせるなど)は、想像力や思考力を育てるべき時期の脳に剪定をさせてしまう危険な行動であり、せっかく子供がもって生まれた才能をかえって殺してしまうだけでなく、問題行動を取る人間を育ててしまう可能性があるということです。
作家で編集者の森まゆみさんという方も新聞案内人の「わが子をよその子とくらべない」というコラムで私たちと同じような問題定義をされています。
かといって、何もしない放任主義が良いというわけではありません。12歳くらいまでは遊びや親の愛情などで脳にたっぷり栄養を与え、想像力や思考力をのばす教育をすることが大切だと思います。私は特に「やりたいことに何でも挑戦させる」ことと「自発的な遊び」を重視しています。アメリカの中・上流階級の者が高校生あたりから伸びてきて後に成功を収め、中年になっても人生を楽しんでいる秘密は、たぶんこのあたりにあると思うのです。
人生の成功とは「楽しく生きる」ことであり、教育の目的はそれを実現する技能と想像力、感受性、楽観性などを身に着けることではないかと私は思っています。
ということで、私が体験から共感を覚える本を今後いくつかご紹介します。
Itoyamaさんと私が共感を覚えるタフツ大学教授David Elkindの本。この分野の先駆者として多くの発達心理学者から尊敬されている先生ですが、本はいまひとつ説得力にかけるところがあります。一冊だけ読むとしたら、古典になっているこれです。
1. The Hurried Child
2. Elkindの本より読みやすく、説得力があるのが3人の心理学者が共著したEinstein Never Used Flash Cardsです。アインシュタインはフラッシュカードなんか使わなかった、というタイトルがいいですね。「どうすればよいのか」というところまで言及しています。(書評は後日)
3. そして一生を通じての遊びを奨励するおすすめ本Play
投稿時刻 07:27
……………………………………………………………………………………………