「限りなき夢追い族」と呼ばれる部族がK山に、 「果てしなき夢追い族」と呼ばれる部族がM山にいました。 両部族の守り神は同じで、それぞれの山の頂上には翼の形をした守り神を祭っていました。 長い間、両部族は空を飛ぶことを夢見ていました。 空を自由に飛び回ることに憧れていたのです。 両部族とも、真剣に努力していました。 「限りなき夢追い族」の長は「速く走れるようになれば飛べる」と信じていました。 一方、「果てしなき夢追い族」の長は「高くジャンプすれば飛べるようになる」と信じていました。 時には両部族間で言い争いも起こりました。 「もう少し速く走れれば空を飛べるんだ。もう少しで飛べるんだ」 「もう少し高くジャンプできれば空を飛べるんだ。もう少しで飛べるんだ」 お互いに譲りません。この争いが起こってから、すでに数十年がたっていました。 そこへ、通りすがりの男が空からフワフワと降りてきました。 両部族は言い争いをしていて、その男がどこからやってきたのか気がつきませんでした。 その男は言いました。 「君たちは空を飛びたいのかい」 すると、両部族が口をそろえて言いました。 「当たり前だ。それが夢なんだ」 その男は不思議そうな顔で、 「じゃあ、なぜあの翼を使わないんだい」 と山頂に飾ってある守り神を見上げました。 両部族ともいっせいに笑い出しました。 「あれは我々の守り神であるシコウリョク様だ。何にも知らないんだな。よそ者は帰ってくれ」 「あれはお祭りのときにだけ使う神聖なものなんだ。何にも知らないんだな。よそ者は帰ってくれ」 そう言って、両部族はまた走ったりジャンプしたりという練習を始めました。 この光景をジッと見ていた子供が男に近づいてきて、真剣な目をして言いました。 「僕、空を飛びたいんだ」 帰りかけていた男は、その子に守り神を指さして言いました。 「あれは翼というんだ。あれを使えば、ほんの少しの助走と、ほんの少しのジャンプで、空を飛べるんだよ」 男は、そう言ってスゥーッと空へ帰って行きました。 子供たちは、その男が翼を使って軽々と空に舞い上がるのをしっかりと見ていました。 そして子供たちは大急ぎで家に帰りました。どの家にも翼は祭られていたからです。 そうなのです。空を飛ぶには翼が必要だったのです。 |